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東京高等裁判所 昭和63年(ラ)621号 決定

抗告人 北海道乳業販売株式会社

右代表者代表取締役 田島久和

右代理人弁護士 近藤繁雄

相手方 更生会社保証乳業株式会社

管財人 樋口廣太郎

今井健夫

右管財人代理 中村清

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告状記載のとおりである。

二  本件記録によると、次の事実が認められる。

1(一)  更生会社保証乳業株式会社(以下「更生会社」という。)は、昭和六〇年三月六日千葉地方裁判所松戸支部に更生手続開始の申立をし、同支部は、同年五月一五日更生手続開始決定をし、清水昌三を管財人に選任したが、同人が昭和六一年二月六日辞任したため、同日今井健夫を、同年八月二五日樋口廣太郎をそれぞれ管財人に選任した。

(二)  管財人は、昭和六三年六月二〇日更生計画案を作成して提出し、同年八月九日第二・三回関係人集会が開催され、同案について審理のうえ、決議が行われた。右決議は、更生担保権者の組では、議決権の総額二一億六一三八万五七六八円中九九・〇三パーセントに当たる二一億四〇三三万六九五八円を有する債権者が、更生債権者の組では、議決権の総額三八億三八四四万六八九八円中九四・九七パーセントに当たる三六億四五三三万一四三八円を有する債権者がそれぞれ同意して可決され、同日同支部は更生計画認可決定を言い渡した。

(三)  右認可された更生計画では、更生担保権については、更生手続開始決定日以降一年間の利息・損害金の全額免除を受け、免除後の債権を一四年間で一五回に分割して弁済すること、優先的更生債権のうち、公租公課については更生手続開始決定日以降の延滞金等の免除を受けて免除後の債権を昭和六三年一〇月末日までに納付し、労働債権については同日までに全額弁済すること、一般更生債権については、債権額の五五パーセントの免除を受け、四五パーセントの残債権を一一年間で一二回に分割して弁済すること、劣後的更生債権については全額の免除を受けること、株式については、旧株式を無償で一〇〇パーセント償却し、更生計画認可決定確定後新たに株式一万株を発行し(資本の額を五億円とする。)、以後更生手続終結までに新株式一万株を発行することが定められており、更生債権の弁済の原資については、会社の主要資産は営業のために不可欠であり、売却して弁済の原資に当てることのできる遊休資産は殆んどないため、基本的には営業収益をもつてこれに充てることが予定されている。

2(一)  更生会社は、牛乳の処理、乳製品の製造販売を主たる事業目的として昭和二八年一一月設立され、昭和三八年八月松戸市松飛台字中原二七五番の二、三、二七六番及び二七七番に新工場(以下「第一工場」という。)を建設して本社を移転した。そして、昭和四六年九月子会社の保証ボール株式会社が設立され、同社は、同市松飛台字御囲二一一番一にボーリング場を建設したが、経営不振で倒産し、更生会社が昭和五三年九月競落により右土地、建物及び同番二の土地を取得し、ボーリング場を改造して本社事務室、倉庫及び食堂等(以下「第二工場」という。)に使用した。

(二)  第一工場は、五四五三・五三平方メートルの敷地に主たる建物として鉄筋コンクリート・鉄骨軽量鉄骨造陸屋根鉄板葺二階建工場(床面積は、一階一九一五・二六平方メートル、二階六六八・一四平方メートル)があるほか、ボイラー室等の従たる建物六棟(合計床面積二八七・九五平方メートル)があり、工業用水道施設も設けられている。工場建物は、一階に冷蔵倉庫、牛乳加工室、充填室及び洗壜室等があり、充填機及び洗壜機等が設置され、原乳の受入から加工・充填・保存・出荷までが一貫して行われるような構造となつている。そして、二階は工場管理事務室、試験室及び殺菌室に使用されている。

(三)  第二工場は、七九三一・二五平方メートルの敷地に、主たる建物として本来ボーリング場として建てられた鉄筋コンクリート鉄骨造亜鉛メツキ鋼板葺陸屋根二階建(床面積は、一階四三五〇・八四平方メートル、二階一九七八・七五平方メートル)の建物があり、本社事務室、応接室、開発室、倉庫、社員食堂、地下駐車場等に使用されている。そのほか、敷地内には冷凍庫、製氷庫、営業用車両の駐車場のほか、営業用のガソリンスタンド(鉄骨亜鉛メツキ鋼板葺平家建、床面積八二・五五平方メートル)が設置されている。

(四)  なお、第二工場については、更生手続開始申立書には、第二工場敷地の売却代金一三億六九八〇万円を弁済に充当できる旨記載され、調査委員の調査報告書には、既に設備投資の過大負担がうかがわれ、第二工場がなくても営業を維持できるとも考えられ第二工場の使用を含まない再建計画も検討されるべきではないかとの見解が表明され、第二回関係人集会において、抗告人代理人から第二工場の土地建物を売却して債権者らに弁済すべきであるとの意見が述べられている。

三  ところで、抗告人は、原決定の認可した更生計画(以下「本件更生計画」という。)は、一般更生債権者の債権につき、その五五パーセントを免除しているが、更生会社の営業継続に必要でない第二工場及びその敷地を売却すれば、優先債権者のみならず、一般更生債権者に対しても債権のほぼ全額の弁済をすることが可能であるから、本件更生計画は債権者の犠牲において新たに経営権を取得する者に不当な利益を与えるものであり、公平の理念に反すると主張するので判断する。

1  まず、更生会社の主たる施設の利用状況をみると、前記のとおり、第一工場は、一階が乳製品等の商品製造の諸施設を収容した工場として、二階が工場管理事務室、試験室及び殺菌室として使用されており、現状のままでは、新しい施設を収容する余地は殆んどない。また、第二工場は、本社事務室、応接室、開発室、倉庫、社員食堂、地下駐車場として使用されており、敷地内には冷凍庫、製氷庫、駐車場、ガソリンスタンドが設置され、右諸施設は、ガソリンスタンドを除いて、更生会社が営業を維持していく上で直接必要であるとみられる。

2  確かに、前記のとおり、第二工場の主たる建物は、もとボーリング場であつたもので、その構造上も、必ずしも更生会社が営業のために利用するのに適切なものとはいい難い面があり、十分に活用されていないところのあることは否定できない。しかし、右建物及び敷地上に設けられた諸施設(ただし、ガソリンスタンドを除く。)は第一工場と相まつて、一体として更生会社の営業を維持しているものであり、第二工場を処分することになれば、これらの施設を他に収容しなければならず、それにはかなりの土地及び建物を必要とするが、前記のとおり、第一工場の建物及び敷地にはこれを賄うに足りる余地はない。そうすると、新たに増改築等をしなければならないことになるが、そのためには多額の費用が必要であり、更生会社がこのような負担に耐えられるか疑問があり、第二工場を売却することを前提とする更生計画では更生会社の更生自体を困難とし、これを不可能とするおそれもうかがわれる。

3  本件更生計画は、更生担保権者及び一般更生債権者に対する弁済を、長期間にわたつて分割して弁済することにしているが、右弁済計画は第二工場も利用することを前提として営業を継続し、その営業利益に主たる弁済原資を求めている。これに対し、仮に第二工場及び敷地を売却するとすれば、売却代金は、先ず更生担保権者に支払われることになるが、本件更生計画による更生担保権者に対する分割支払予定金員から、右弁済相当額が控除されることになるから、一般更生債権者に対する弁済の原資も、それだけ増加することになるのであるが、その場合でも、なお全額弁済には至らないものと考えられる。しかも、その後の分割支払は営業収益によるものであつて、第二工場及び敷地の処分から生ずる増改築費用等の支出増が更生会社の経営を圧迫し、予定した収益を得ることができなくなり、ひいては弁済計画自体遂行が困難となるおそれがある。

4  右のとおりであるから、更生手続開始後の更生管財人の更生会社経営上の知見を併せ考えると、第二工場及び敷地を保持することは更生計画の遂行に必要であり、これを前提とする本件更生計画が一般更生債権者の債権を減額したうえ、残債権を分割弁済することを余儀なくすることになるとしても、その確実性の度合いを考慮すると、一般更生債権者に不当な犠牲を強いるものということはできない。本件更生計画は、公正かつ衡平であり、また本件記録を精査しても、本件更生計画を違法たらしめる事由の存在は認められない。

四  以上の次第で、本件更生計画を認可した原決定は相当であり本件抗告は理由がない。よつて、本件抗告を棄却する

(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 加茂紀久男 新城雅夫)

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